T02|Think|思考の法則
提案を始めるときには、たいてい何らかの計画を立てます。
何をするのか。
どのような手順で進めるのか。
どこまで自分が担当するのか。
相手と話し合い、了承を得て仕事を始めます。当然、その計画を最後までやり遂げることが、仕事をきちんと完成させることだと思います。しかし、実際に仕事を始めると、最初には見えていなかったことが見えてきます。そんなとき、最初に決めたことを守るべきなのでしょうか。
私は、そうとは限らないと思っています。
提案は、途中で変えてもいい。
むしろ、途中で分かったことによって提案を変えられることも、提案する側の大切な仕事だと思います。
ホームページを全面的に作り直す
昔、あるB2Bの設備機械会社から、ホームページについて相談を受けました。
社長からの依頼は、「ホームページを何とかして、アクセスを増やしたい」というものでした。
話を聞き、既存のサイトも確認した結果、サイト全体を作り直すことになりました。まずメインとなるページを作る。その後、社員の皆さんに順番にヒアリングしながら、それぞれの業務や設備についてページを作っていく。私は、そんな進め方を考えていました。ごく普通のサイト制作の方法だったと思います。
ところが、実際に進めていくうちに、一つの問題に気づきました。
私には分からない。社員にも伝え方が分からない
設備機械の仕事には、専門的な知識が必要です。
私はウェブサイトについては分かりますが、その会社の設備や業務について、社員と同じように理解しているわけではありません。それなら社員に聞けばいい。最初は、そう考えていました。
ところがヒアリングしてみると、今度は別の問題が見えてきました。社員は当然、自分たちの仕事について知っています。しかし、
「それをホームページで、どう伝えればいいのか」
となると、なかなか言葉になりません。私は業務の中身を十分に知らない。社員は業務を知っているけれど、それをウェブでどう表現すればいいのか分からない。このまま私が一人ずつヒアリングして、すべてのページを作っていくことが、本当にこの会社にとってよい方法なのだろうか。途中で、そう考えるようになりました。
「私が作る」ことをやめてみる
そこで、最初の計画を変えることにしました。
私がすべてのページを完成させるのではなく、
各ページの基本的な形だけを私が作り、その後は社員自身が内容を追加し、メンテナンスできるようにする。
その方が、この会社にとってはよいのではないか。サイトを作ったあとも、会社の仕事は続きます。新しい設備が入るかもしれません。新しい仕事が始まるかもしれません。伝えたいことも変わっていきます。そのたびに外部の私へ依頼しなければ何も変更できないサイトより、自分たちで育てていけるサイトの方が継続性があります。
そこで社長に、進め方そのものを変更することを提案しました。社長は了承してくれました。
最初は、おそるおそるだった
もちろん、社員の皆さんが最初から積極的に更新したわけではありません。それまで自分たちでホームページを作った経験はありません。最初は、おそるおそるでした。
「これでいいのだろうか」
そんな感じだったと思います。
ところが、少しずつ自分たちで更新できることが分かってくると、様子が変わってきました。
「あれをやりたい」
「これも載せたい」
そんな声が出るようになりました。新しいページも、自分たちで少しずつ追加するようになりました。
やがて、ホームページは私が作るものではなく、社員みんなで育てるものになっていきました。
想定していなかった成果
変わったのは、ホームページだけではありませんでした。社員が自分たちの仕事をどう伝えるかを考えるようになりました。誰か一人が担当するのではなく、みんなでサイトをよくしようという雰囲気が生まれました。社内の士気も上がり、チームワークでホームページを盛り上げるようになっていきました。これは、最初の計画にはなかった成果です。
私は当初、
「この会社のホームページを作る」
ことを考えていました。
しかし途中から、
「この会社が、自分たちでホームページを育てられるようにする」
ことに変わりました。もし最初に決めた方法に固執し、最後まで私がすべてのページを作っていたら、この変化は起こらなかったと思います。
提案を変えることは、失敗ではない
仕事の途中で提案を変えると、
「最初の提案が間違っていたのではないか」
と思うことがあります。
しかし、私はそう考えなくなりました。仕事を始める前に分かることには限界があります。実際に始めるからこそ見えることがあります。
相手と話す。
現場を見る。
実際にやってみる。
反応を見る。
そうすることで、最初にはなかった情報が増えていきます。情報が増えたのに、最初の判断だけを守り続ける必要はありません。むしろ、
新しく分かったことを使って、もう一度考える。
それがThinkなのだと思います。
最初の提案は、仮説である
F01では、
答えを持っていくな。見つけにいけ
としました。
だからといって、何も考えずに仕事を始めるわけではありません。最初の提案は必要です。ただし、それを完成した答えだと思わない。
最初の提案は、その時点で考えられる一つの仮説です。
実際に進めてみて、仮説が正しければ続ければいい。違うものが見えてきたら、修正すればいい。もっとよい方法が見つかったら、そちらへ変えればいい。最初の提案を守ることより、相手にとってよりよい状態をつくることの方が大切です。
提案者の役割まで変えていい
この経験では、提案の内容だけでなく、私自身の役割も変わりました。
最初は、
「私が作る人」
でした。
途中から、
「社員が作れるようにする人」
になりました。
提案というと、「何をするか」を考えがちです。しかし場合によっては、
「誰がするのか」まで考え直す必要があります。
自分がやった方が早いこともあります。専門家に任せた方が品質が高いこともあります。一方で、自分がやらない方が、相手の中に力が残ることもあります。その判断も、最初から決めつけない方がいいのだと思います。
最初の提案に固執するな
提案は、最初に決めた計画を最後まで守り抜くことではありません。進めることで、新しいことが見えてきます。そのとき必要なのは、最初の提案を正当化することではなく、今分かっていることでもう一度考えることです。
提案を変えることは、失敗ではありません。最初の提案では見えていなかったものが、見えるようになったということです。だから私は、最初の提案を大切にしながらも、それに縛られないようにしています。
最初の提案に固執するな
提案の目的は、自分の最初の案を実現することではありません。相手にとって、よりよい状態を一緒につくることなのです。
提案の成長スパイラル:Think|思考
→ 提案の法則一覧へ戻る