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制約を味方につけろ

T03|Think|思考の法則

提案を考えていると、さまざまな制約にぶつかります。

予算がない。
人がいない。
時間がない。
今の仕組みではできない。

こうした条件が出てくると、私たちはつい、「この制約をどうやって取り除こうか」と考えます。

もちろん、取り除ける制約なら、それでもいいでしょう。しかし、どうしても動かせない制約もあります。そんなとき私は、制約を邪魔なものとして見るのではなく、

「この条件があるからこそ、別の方法を考えられないか」

と考えるようにしています。制約は、できることを減らすだけではありません。

今まで当たり前だと思っていたことを、考え直すきっかけにもなるからです。

営業マンが倍になる

昔、私は1,000名を超える営業マンが利用するシステムの構築・運用を担当していました。

当時は、営業マン一人ひとりにパソコンがあり、それぞれのPCにアプリケーションをインストールして、サーバーと通信するクライアントサーバー型のシステムを使っていました。

あるとき、会社が別の会社と合併することになりました。営業マンの数は一気に約2倍になります。当然、それに対応する新しいシステムが必要になります。ところが、大きな問題がありました。

従来と同じような方式で新しいシステムを構築すれば、一般的には10億円前後の費用がかかります。
しかし、「そんな費用は出せない」と言われました。

お金もない。人もいない

問題は予算だけではありませんでした。システムを構築するスタッフも十分ではありません。情報システム部門にも、新しい大規模システムを構築するだけの余裕はありませんでした。いろいろなベンダーにも相談しました。しかし、条件が厳しく、なかなか引き受けてくれるところもありません。
従来の方法を前提に考えると、

「予算が足りない」
「人が足りない」
「引き受けてくれる会社もない」

という話ばかりになります。
どうすれば10億円の予算を確保できるのか。
どうすればスタッフを増やせるのか。
最初は、そうした問題として考えていました。しかし、あるとき問いそのものを変えてみました。

「そもそも、今までと同じ方法で作る必要があるのだろうか」

Webでシステムを作れないか

ちょうどその頃、Webというものが世の中に広がり始めていました。今ではWeb上で業務システムを利用することは当たり前ですが、当時はまだ新しい考え方でした。私は、

「Webを使えば、このシステムを作れるのではないか」

と思いました。もちろん、私自身にも十分な知識があったわけではありません。そこで、Webに関するセミナーに通い始めました。特に、新しいWeb技術を扱うセミナーには積極的に参加しました。

話を聞く。
技術を調べる。
できそうな人を探す。

そして、実際にシステムを構築できそうな人を見つけ、相談しました。調べていくと、実現できる可能性があることが分かってきました。さらに大きかったのは、費用です。従来方式なら10億円前後かかると考えていたシステムが、およそ10分の1の費用で構築できる可能性が見えてきたのです。

今度は「前例がない」が制約になった

そこで私は、Webを使ったシステムの導入を提案しました。ところが、簡単には進みませんでした。親会社から猛反対を受けました。当時、Webを業務システムに使うことは、まだ一般的ではありませんでした。新しい技術への不安があります。セキュリティへの懸念もあります。実績も少ない。「今までと違う」ということ自体が、大きな障壁でした。

しかし、私は、

従来方式に比べて費用を大幅に抑えられること。
PC一台一台にアプリケーションを入れて管理する方式より、メンテナンスしやすくなること。

そして、

「これからはWebの時代になる」

という考えを説明しました。

最終的に承認を得ることができ、Webを使ったシステムを構築することになりました。

結果は、大成功でした。

10億円あったら、思いつかなかったかもしれない

この経験を振り返って、ときどき考えることがあります。

もし最初に、「10億円かかっても構わない」と言われていたら、どうしていただろう。

おそらく私は、従来と同じクライアントサーバー型のシステムを作ることを考えていたでしょう。わざわざWebのセミナーに通う必要もなかったかもしれません。新しい技術を調べることもなかったかもしれません。

つまり、

「10億円は出せない」という制約が、新しい方法を探すきっかけになったのです。

予算がないこと自体は、決してありがたい話ではありません。人がいないことも同じです。しかし、その条件を変えられないのであれば、「どうすれば制約をなくせるか」だけを考えていても前へ進みません。
そこで問いを変えます。

「この制約があることを前提にしたら、別の方法はないだろうか」

制約が、問いを変える

制約にぶつかったとき、「できない理由」を並べることは簡単です。

しかし、「なぜ、できないのだろう」と考えてみると、その中に自分たちが無意識に置いていた前提が見つかることがあります。

今回なら、

「大人数が使う業務システムは、従来と同じクライアントサーバー型で作る」

という前提でした。10億円という費用も、その前提の中では必要だったのかもしれません。
しかし、前提を変えれば、必要な費用も仕組みも変わります。制約そのものが答えを教えてくれるわけではありません。けれども、

制約は「今までの考え方のままでいいのか」と問いかけてくれます。

制約と無謀は違う

ただし、制約があるからといって、何でも新しい方法に変えればよいわけではありません。当時のWebには、実績の少なさやセキュリティなど、現実のリスクもありました。だから私は、単に、「Webなら安くできます」と提案したわけではありません。

セミナーに通い、技術を調べ、実現できる人を探し、相談しました。実現可能性を確かめたうえで提案しました。

制約を味方につけることと、無謀な挑戦をすることは違います。

制約によって生まれた新しいアイデアほど、本当に実現できるのかを確かめる必要があります。

「できない」を、考える材料にする

提案では、制約は必ず出てきます。

予算。
人員。
時間。
技術。
組織。
ルール。

それらをすべて取り除いてから提案できることなど、ほとんどありません。だから私は、制約が出てきたとき、

「困った」と同時に、「これは何を考え直せということだろう」

と考えるようにしています。制約によって、一つの道が閉じることがあります。しかし、そのおかげで、それまで見ていなかった別の道を探し始めることもあります。

Thinkとは、前提を疑うこと

T01では、成功体験を疑いました。過去にうまくいったからといって、今回も正しいとは限りません。
T02では、最初の提案に固執しないことを考えました。途中で新しいことが分かれば、提案そのものを変えていい。
そしてT03では、制約によって「できない」と思ったとき、その前提を考え直します。

過去の正解を疑う。
今の自分の案を疑う。
そして、

「できない」と思っている前提を疑う。

Thinkとは、難しい理論を使うことだけではありません。

「本当にそうなのか」と、もう一度考えてみること。

そこから、新しい提案が生まれることがあります。

制約を味方につけろ

制約は、提案を邪魔するものです。しかし、それだけではありません。制約があるからこそ、それまで当たり前だと思っていた方法を疑うことがあります。そして、そこから新しい方法が生まれることがあります。

制約を味方につけろ

できない理由として制約を見るのではなく、

今までとは違う答えを考えるための条件として、制約を使う。

それが、私が提案を考えるときに大切にしていることです。

提案の成長スパイラル:Think|思考
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