(※2021年4月公開記事の全面アップデート)
1.はじめに
――老後資金について、もう一度考え直す理由
このブログでは、2021年に「老後資金の考え方」について書きました。
いわゆる「2000万円問題」が話題になっていた頃です。
あれから数年が経ち、
私自身も年齢を重ね、
ファイナンシャルプランナーとして多くの相談を受けてきました。
その中で、はっきり分かってきたことがあります。
老後資金の問題は、
数字の問題であると同時に、生き方の問題でもある
ということです。
そして正直に言えば、
当時考えていたことと、
いま実感していることの間には、
確かなギャップがありました。
そのギャップを踏まえ、
2026年のいま、
老後資金について改めて整理し直したいと思います。
2.「老後」という言葉自体が、すでに曖昧になっている
制度上は、
65歳前後を「老後」の目安とすることが多いでしょう。
しかし、実際の感覚としてはどうでしょうか。
65歳を過ぎても元気な人は多く、
法律改正により、本人が希望すれば
65歳まで働き続けることは、
今では珍しいことではなく、
むしろ一般的になりつつあります。
私自身の実感では、
「老後」と呼べるのは75歳前後から
という感覚に近づいています。
そう考えると、
老後資金は「もう遅い話」ではありません。
まだ準備可能なテーマであり、
これから整えていく余地のある課題でもあります。
3.思いだけでは伝わらない。だから、数字が必要になる
老後資金の記事を書くうえで、
私は必ず数字を示すようにしています。
理由は単純です。
数字がなければ、将来をイメージできないからです。
思いや考えだけでは、
人はなかなか動けません。
将来の輪郭が見えない状態では、
不安だけが先に立ち、
気持ちも落ち着かなくなります。
逆に、
完璧でなくても
「だいたいこんな感じだろう」という輪郭が見えれば、
人は冷静になります。
数字の役割は、
正解を出すことではありません。
老後のイメージを具体化すること
それが一番の目的です。
4. 2026年時点で見る、老後の生活費と年金の目安
まずは、現実を知るための数字です。
総務省統計局「家計調査(家計収支編)」
(2023年〜2024年平均、二人以上世帯・65歳以上の世帯主)をもとにすると、
65歳以上・夫婦2人世帯の生活費は、
- 約23〜25万円/月(最低限〜標準)
- 約35〜39万円/月(ゆとりある生活)
が一つの目安になります。
一方、年金収入については、
厚生労働省「令和5年 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
および日本年金機構の公表資料をもとにすると、
夫婦2人で厚生年金を受給している場合、
- 約21〜23万円/月
というケースが多く見られます。
生活費の水準によっては、
毎月数万円〜10万円程度の不足が生じることになります。
5. 老後資金の計算は、こう考える
老後資金の基本的な考え方は、とてもシンプルです。
(毎月の支出 − 毎月の収入)× 老後の期間
計算例①:夫婦2人・標準的な生活
- 支出:23万円/月
- 収入(年金):22万円/月
- 不足:1万円/月(年12万円)
老後期間を25年とすると、
12万円 × 25年 = 約300万円
この水準であれば、
老後資金が極端に不足する状況ではありません。
計算例②:少しゆとりを意識した生活
- 支出:30万円/月
- 収入:22万円/月
- 不足:8万円/月(年96万円)
96万円 × 25年 = 約2,400万円
いわゆる「2000万円問題」は、
この程度の生活イメージを前提にした数字です。
6. 設計図に載らないお金が、現実にはある
この話をすると、相談の場では必ずこう聞かれます。
「では、どれくらい準備しておけばいいのでしょうか?」
正直に言えば、
この問いに、万人共通の正解はありません。
孫との関わり方も、
住まいの形も、
交際の範囲も、
家電や設備の更新頻度も、
人によってまったく違うからです。
そのため、
「設計図に載らないお金」を
正確に計算することはできません。
私は相談の場では、
ひとつの目安として、
生活費の15%程度を上乗せして考える
という話をすることがあります。
ただし、
これは経験値に基づく感覚的な目安であり、
「この金額を準備すれば安心」という
確定的な答えではありません。
しかし、ひとつだけ、
どの方とも必ず共有する話があります。
それは、
自分自身にかかる介護費用です。
この点については、
統計データを整理して見ると、
状況が分かりやすくなります。
| 区分 | 年数の目安 | 内容の意味 | 主な出典 |
|---|---|---|---|
| 平均寿命 | 男性 約81年 / 女性 約87年 | 生存期間の平均 | 厚生労働省 |
| 健康寿命 | 男性 約73年 / 女性 約75年 | 日常生活に制限のない期間 | 厚生労働省 |
| 不健康期間 | 男性 約8年 / 女性 約11年 | 生活に制限が出る可能性のある期間 | 厚労省・内閣府 |
| 介護期間(平均) | 約4〜5年 | 実際に介護が必要になる期間 | 生命保険文化センター |
| 実務上の想定期間 | 約8年 | 介護前後を含めた備えの目安 | 筆者整理 |
平均寿命と健康寿命の差は、
統計上「不健康期間」と呼ばれ、
日常生活に何らかの制限が出る可能性のある期間を示しています。
この不健康期間は、
日本人の場合、
おおよそ10年程度とされています。
一方で、
実際に介護が必要になる期間の平均は、
統計上は約4〜5年程度とされています。
不健康期間のすべてが、
常時介護を要する状態とは限りません。
・通院が増える
・家事や外出が少しずつ難しくなる
・見守りや軽い支援が必要になる
そうした期間も含めて考えると、
私は実務上の目安として、
不健康期間の中間値である
約8年をひとつの仮定として置いています。
この話をすると、
多くの方が口を揃えて言います。
「子どもには、できるだけ負担をかけたくない」
この思いだけは、
ほぼ例外がありません。
そこで私は、
その約8年間については、
年金とは別に
年間100万円程度の費用がかかる
と考える一つのモデルを示しています。
100万円 × 8年 = 約800万円
これは、
必ず必要になる金額ではありません。
しかし、
「このくらいは覚悟しておく必要があるかもしれない」
という現実的な目安にはなります。
7. 相談現場で感じる、もう一つの現実
私が相談を受けていて驚くのは、
多くの方が、
- 自分の年金額を知らない
- 家計全体でいくら使っているか把握していない
- 何歳まで働けそうか考えたことがない
という状態で来られることです。
決して怠慢ではありません。
関心を持たなくても生活が回る環境に、
長く身を置いてきただけなのです。
しかし老後という局面では、
それが一気に不安として表に出てきます。
8. 私の立場について、誤解のないように
私は、
中小企業診断士、
ファイナンシャルプランナー、
ウェブ解析士マスターの3つの資格を軸に活動しています。
ただし、
それぞれがカバーする領域は異なり、
考え方が重なるものではありません。
- 経営や意思決定の整理
- 家計や資金の整理
- データや行動の可視化
それぞれ、
異なる対象を見るための道具として使っています。
また私は、
保険会社、金融機関、不動産会社などに
紐づいたファイナンシャルプランナーではありません。
特定の商品や分野を前提に、
相談者を意図的に誘導することはしていません。
できるのは、
現状を整理し、
考えられる選択肢と判断材料を示すことまでです。
9. 判断するのは、あなたです
相談の最後に、
私は必ずこうお伝えしています。
判断するのは、あなたです。
私は、その判断を支援しているだけです。
お金の話は、
どうしても「正解探し」になりがちです。
しかし、
人生に唯一の正解はありません。
あるのは、
- どこまでなら納得できるか
- 何を大切にしたいか
- どのリスクなら受け止められるか
という、
自分自身の判断だけです。
10. 自分の数字を書き出してみたい方へ
老後資金について考えるとき、
まず必要なのは「正確な計算」ではありません。
自分の生活と将来を、
一度、紙の上に並べてみることです。
私は相談の前に、
このような簡単な書き込み式の準備シートを使っています。
金額を口に出す必要はありません。
「だいたい」「分かる範囲」で十分です。
書いてみて、
分からないところ、迷うところがあれば、
そこが考えるべきポイントになります。
11. 【追記・変更点まとめ】
2021年記事から、2026年版で何をアップデートしたのか
本記事は、2021年4月に公開した
「老後資金の考え方」をベースに、
内容を全面的に見直したものです。
主な変更点は次のとおりです。
- 「2000万円問題」中心の構成から、
生活水準ごとに考える構成へ変更 - 老後=65歳という前提を見直し、
75歳前後からの実感を反映 - 孫・冠婚葬祭など、
設計図に載らない支出を明示 - 相談現場での実感を反映し、
「知らない人が多い現実」を整理 - 中立系FPとしての立場を明確化
- 老後資金の目的を
精神的な安定と将来の可視化に再定義
危機感を煽るための記事ではありません。
正解を押しつける記事でもありません。
それぞれの未来を、
それぞれの立場で思い描くための材料として、
この記事を書いています。
12. ご注意願いたいこと
・投資、年金、保険、相続、税金等の実務は、専門資格領域となるため、FPがその範疇の業務をお手伝いすることは禁じられています。具体的な事項につきましては、弁護士、税理士、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。
・引用した資料は、引用先を示すとともに、最新のものとなるように努めますが、発表時期(もしくは、閲覧時期)によっては、陳腐化している可能性もあります。そのため、実際の状況に照らし合わせて、都度、ご確認していただくようにお願いいたします。
・本資料は、2026年2月11日現在において、入手可能な公表資料および統計データをもとに構成しております。
